欅(けやき)について


 
(1)ケヤキの名称

ケヤキは樹木としての評価からも,また木材とし ての価値からも,
日本の代表的なものの一つである.
落葉高木でケヤキの語源は「けやけき木」すなわち顕著な木だという牧野富太郎の説が『牧野・新日本植物図 鑑」に出ている.
しかし国内各地にケヤという方言 があるので,あるいは何か違った意味があるのかも しれない.またケヤキの名称は近代の言葉であって,古くはツキと称し 万葉集 にはすべてツキの名称 で出ている.

例えば高市黒人の歌,「とく来ても見て ましものを山城の高のつき群(むら)ちりにけるか も」などがある.現代でも和歌や俳句ではツキと呼 ばれている方が多い.
「吹流しすがしや観(つき)と粒 び立つ」(秋桜子)といった句がある.ツキの意味は 材が強籾なことによる強木(つよき)からであるとさ れている.
なお材についてケヤキとツキを別個の対 応したものとしていう場合があるが,このことにつ いては別項に記す.

ケヤキの漢字には欅が,ツキに は槻が広く使われている.
牧野富太郎の説によれば 中国の欅は全く違ったクルミ科シナサワグルミ(カンポウフウ) のことであるというが,現在中国ではケヤキ属標準名に 欅樹が用いられている.
種としてのケヤキの中国名は 光葉欅ある.欧米にはこの種がないので,英名でいう場合に は,日本名そのままにkeakiまたはkeaki tree,あ るいはzelkovaを用いる.

 
(2)ケヤキの概要
高さ35m,直径2mにもなる大高木で,老木では もっと大きいものもある.
幹はふつうまっすぐでこ れから分かれた枝がほうき状に上向きに伸び,広葉 のうちではきわめて整った形をしている.
樹皮は 灰白色で,壮齢まではおおよそ平滑で多少横しわがある程度であるが,老木になると大きな鱗片になっ て剥げ,あとは独特の雲紋状の凹凸になる.葉は枝 に2列になって互生し,長い楕円形から卵状楕円形, 長さ3−7cm,先端は鋭尖で基部は円形から浅い心 臓形になる.栗縁には疎くて多少大きな鋭い鏡歯が あり,この葉の形はほかのものと間違えることは少 ない.側脈は8−18対あって,葉の上面はざらつく. 花は4−5月に葉と同時に出るが,大きな樹で上の方 の新しい枝につくのと,淡黄緑色の小さい花なので, ふつう目立たない.雌雄同株で雄花と雌花または両 性花とがあり,10月に灰黒色で直径5mmくらいの いびつな扇球形のそう(痩)果に成熟する.
秋,落葉 のとき大きい樹では小枝も葉といっしょに落ちてく る.  
牧野富太郎が葉の両面と葉柄に密に毛があるもの を変種としてメゲヤキとしたが,これは支那産の トウゲヤキ と同一のものだろといわれている.
また台 湾産のケヤキは別の種類タイワンゲヤキとする説があるが,ケヤキと同一種と見てよいようである.
シダレケヤキは枝が下垂する傾向を示す品種である.
 
 
(3)生育地と巨樹,名木
ケヤキの自然の分布は本州,四国,九州,朝鮮, 台湾,支郡の温帯から暖帯で,肥沃な谷間などに好 んで生育している.また農家のまわり,神社,お寺 の境内などにも多く植えられていて,いわゆる屋敷林のおもな樹の一つである.
ことに関東地方ではよ く目につき,武蔵野の風趣を形作っている.さらに 広く全国各地で庭園樹,公園樹,街路樹に多く使わ れており,これら植栽用の苗木の産地として関東で は埼玉県安行(あんぎょう)がよく知られている.
東京都内にもケヤキが多いが,最近排気ガスの害を受 け一般に樹勢が著しく悪くなり,ひどいのは夏に一 度落葉してしまうものがある.
天然木では宮城県か ら福島県へかけての阿武隈山地,伊豆天城山,奥利根,十和田湖周辺,熊野地方などが古くからその名 産地として知られているが,現在は各地ともかなり 少なくなっていると思われる.
宮城・福島・埼玉県 ではそれぞれ県の木に選定されている.
ケヤキは寿命が長く,各地で巨樹,名木が天然記 念物に指定されている.
日本最大のものは岩手県東 根市にあるもので,高さ35m,樹齢1,000年以上と いわれる.
また東京都府中市馬場大門のケヤキ並木 も有名であるが,現在は約60本が気息えんえんとし て残っていて,樹齢300年から800年と推定されて いる.
 
(4)材の組織
磯孔材で年輪は明瞭に見ることができる.辺材と心材の区別ははっきりしていて辺材は淡い黄褐色,心材は黄色味がかった褐色から紅褐色である.
肌目 は粗い.顕微鏡的な材の構成要素とその占有割合は,道管14.3%,真正木繊維58.5%,軸万向案組織 16.7%, 放射組10.5%である.横断面で見ると, 年輪の内境,すなわち孔圏に大きな道管が,おもに 1層,ときには2層並んでいるので,縦の材面で木理がきわめて明快に現れる.この孔圏道管の径は 0.10.25mmで,これがほとんど1層であること でヤチダモ,ハルニレ,キハダなどの似た環孔材と区別することができ,同じく孔圏道管1層のハリギ リとは材色で区別できる.
孔圏の大道管はふつう単 独でそのまわりや年輪の境にそって小径の道管が集 まり帯状または団塊状に接続している.また孔圏外 でも小径道管が単独または花模様状や接線方向に並 んでかたまって存在している.
小径道管の径は 0.02−0.06mm,まれに0.1mmである.孔圏の大 道管のせん孔板はほとんど水平,孔圏外小道管では 傾斜しともに単せん孔で,小道管の内壁にはらせん 肥厚がある.材の基礎組織を形成しているのは真正 木繊維で,長さ1.2(0.8−2.0)mm,径0.01−0.02 mm,壁厚0.003−0.005mmである.
軸方向柔組織は大部分が大径道管と小径道管群を 囲む周囲柔組織で,そのほかに小径道管群の中に混 在しているものと,1~数細胞層のターミナル柔組織 とがある.
柔細胞の径は0.01−0.025 mm,壁厚は 0.001−0.0015 mmある.放射組織は接線方向に 1−8細胞幅,軸万向に1−50細胞高の異性のもの で,大部分は平伏細胞からなるが,上下両縁と周辺に直立細胞が現れ,ときにその中に修(しゅう)酸石 灰の結晶を含んでいる.
木理がはっきりしているた めに,老大木ではよい杢(もく)が現れるものがあり,模様によって如鱗(にょりん,じょりん)杢,玉杢, 頚(うずら)杢,牡丹(ぼたん)杢などといわれる.
(5)材の性質と利用
材の物理的・機械的性質は次のようである.気乾  比重0.69(0.47~0.84),含水率1%当りの平均収縮  率は,接線方向0.28(0.17~0.38)%,放射方向0.16(0.09~0.23)%,熱伝導度(合水10%,温度  200C)0.123 kcal/m・h・0C,誘電率(IMC)は全乾時1.7,気乾時4.3,着火点264(257~270)℃,発火点464(450~480)0C,縦圧縮強さ500(350~650)kg/  cm2,縦引張強さ1,30(850~1,700)kg/cm2,曲げ  強さ1,000(700~1,400)kg/cm2,曲げヤング係数  12.0(8.0~15.0)×10」・kg/cm2,せん断強さ130(80~190kg/cm2,衝撃曲げ吸収エネルギー0.9(0.7  ~1.2)kg・m/cm2,ブリネル硬さは横断面4.5(3.0  ~6.0)kg/mm2,放射断面1.8(1,3~2.0)kg/mm2,接線断面2.0(1.4~2.5)kg/mm2.   村の化学的組成は,セルロース53%,αセルロース44%,ベントザン15%,ガラクタン0.6%,リ  グニン22%,冷水抽出物4%,アルコール抽出物9  (?)%,ベンゾール抽出物1%,1%NaOH抽出物14%,灰分0.5%を示す.なお心材にフェノール成  分ケヤキニンを含んでいる.
材はやや重くてかたいが切削などの加工はそれほど困難ではない.比重に対応して強度も大きく,また大木で年輪幅の狭いものでは狂い少ない.
心材は水温に対して保存性がきわめて高い.材の肌目は 粗いが,仕上げ面を磨くとよい光沢が出る.木理が明瞭で美しいこと,
強度が大きいこと,耐朽性があ  ることの三拍子がそろっているので,わが国の広葉樹材では第一番の良材であり,構造材にも装飾材にもすこぶる用途が広い.

建築材としては柱,梁などの構造材,階段,棚,  床(ゆか)板,門と扉,板戸,障子・ガラス戸の腰板,  洋室壁板,天井,床(とこ)まわりなどの造作材・装飾材の何にでも賞用される.
最近は広い板物にはスライスドベニヤをはった合板で用いられることが多い.昔からとくに社寺建築材にヒノキと並んで最も重要であった.家具材では和家具に箪笥(たんす),座卓,火鉢,仏壇などがあり,また各種の洋家具にも取り入れられている
.器具材にも多方面に使われ, 漆器の盆・椀,臼と杵(きね),
太鼓の胴,いろんな柄類,機械の部材などが割合特色がある.車両材,船舶材でも構造材および内装材に最も重要なものであったし,また橋の欄干(らんかん)や橋板,枕木にも多く使われてきた.とくに近年までは電柱腕木として他に代えることができないとされてきた.
そのほかに彫刻材,薪炭材などの用途もあげられる.
(6)材としてのケヤキとツキ
植物学的にはケヤキとツキは同一で,ツキはその 古名と考えてよいが,材を扱う上で音からケヤキと ツキの区別がよくいわれている.ただ処により,人 によりかなり違った内容,すなわち材の色やかたさ の表現と,その評価がいろいろあるので,これを整 理することはむずかしいが,おおよそ共通なのはケヤキがよい材で,ツキはそれに劣るということであ る.
次のように考えるのが比較的妥当ではないかと 思う.
ケヤキとツキは遺伝的な品種の違いではなくて, その樹の育った条件によって材の性質が違ってでき たものであろう.
生長がよい状況,すなわち幅広い 年輪が作られる場合は材の赤味が少なく重くかたい 材ができる.
それは生長の良否によって大径道管が 並ぶ孔圏の幅がほとんど変わらないのに,孔圏外の 繊密な材部の形成される割合が著しく変化するから である.
したがって生長のよいものは加工が困難で あり,材に狂いが出やすい.これがツキで,アオゲ ヤキ,イシゲヤキというのもこれに相当する.そう でないのがツキに対応したケヤキで,ホンゲヤキ, アカゲヤキ,ベニゲヤキなどというのもこれに当る.
おそらく若木ではツキに当るものが多く,本当によ いケヤキの材は老大木からのものと思われる.
支郡東部・中部産で,材の気乾比重0.79,縦圧縮強487kg/cm2,
曲げ強さ1,301 kg/cm2,曲げヤング係数 12.6×104・kg/cm2である.

 
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