ヤマグワ (山桑)について



(1)クワの名称と養蚕

わが国に自生するヤマグワは落葉高木で,分類学者の 間では
後記のシマグワと全く同一種と見て,その学名を用い る見解も少なくない.
ここではこれまでに多い慣用 に従って,別種として扱っておく.
養蚕に栽培されているクワ(桑)には,このヤマグ ワから出た品種のほかに,
支那原産のマグワ(カラヤ マグワ)ロソウ(魯桑) に基づく品種
およびこれらの間 の雑種由来の多くの品種がある.
養蚕は中国において約3,000年前から行 われ,日本には奈良朝以前
に入ってきている.
現在 のクワ栽培品種の分布は,ヤマグワ型が北方の東 北・北陸に
多く,ロソウ型が南方の中国・四国・九 州に多く,マグワ型はほぼ
全国一円にわたっている.
採苗は実生,接木,取木,挿木により,畑での仕立 て方は低い根刈り法が
大部分で,また中刈りや高刈り,立通しなどが行われている処もある.

 クワの名は古くから知られ,その語源は食葉(ク ワ)あるいは
蚕葉(コハ)という.『万葉集』に「足乳 根(たらちね)の母のその業(なり)の
桑すらに願へは 衣に著るというものを」などがある.
また「この夕 柘(つみ)のさ枝の流れ来ば梁(やな)は打たずて
取らずかもあらむ」などにツミとあるのもクワの古名だ という説が
有力である.

 ツミは葉を摘むことから出 ているといわれ,漢字の柘は,
元来は支那産のハリ グワのことである.
後の歌は吉野川に梁を打って鮎をとり生活していた 男が,
梁にかかった枝を持ち帰ったらそれが美女に 化して,ついに
夫婦になったという話に由来し ている.  

 

 
(2)ヤマグワの概要
ふつうに山野に自生するものは高さ10m,直径 60cmくらいまでの
小高木であるが,稀には直径l m以上の大木となる.
樹皮は灰褐色で不規則に浅い 裂け目をあらわすが,
老木では裂け目は深くなる. 葉は互生し薄質で,
卵円形から卵状楕円形,長さ 8~20cm,先端は急に鋭尖し
基の方は浅い心臓形か ら円形になる.
縁には疎い不規則な鋸歯がある.髪 形の変化が多く,ことに勢いの
よい葉ではいるんな 形に浅裂あるいは深裂する.成葉では上面が
ざらつ く程度であり,下面に少し毛が残る.基部から3本 の葉脈が出て,
中央のものはさらに側脈を出す.
ふつう雌雄異株であるが,まれに同株のことがある.

4~5月に新しい枝の基の方に下垂した穂状花序を 出し,黄緑色をしている.
果実は一つ一つはごく小 さいが肥厚して多汁になった花被に包まれ,
楕円形 の集合累の形で,6~7月に紅色から黒紫色に熱す る.
これがクワノミ,桑櫨(そうじん)で,その花被 は甘く,子供が好んで食べ
口のあたりを紅紫色に染 める.
 ヤマグワは南樺太,南千島,北海道,本州,四国, 九州,朝鮮,満州,支郡の
温帯から暖帯の山野にご くふつうに自生している.しかし大きい樹は
なくな り,蓄積もきわめて少なくなっている.

    

 
(3)材の組織
辺材と心材の区別は明瞭で,辺材は帯黄灰白色, 心材は暗黄褐色で
黄色味がかっていることが著し い.
年輪は明瞭でときに如輪杢(じょりんもく,にょ りんもく),玉杢,牡丹李などの
美しい杢が出ること がある.
肌目は粗い.顕微鏡的な材の構成要素とそ の占有割合は,
道管28.6%,真正木繊維55.2%, 軸方向柔組織4.4%,放射組織11.8%である.
 環孔材で,孔圏には1~3層の径0.04~0.2mmの 大きい道管があり,
孔圏外では径0.02~0.08mmの 小道管が数個接続して斜め方向の模様を
なしている ことが多い.
分布数は孔圏で12~18/mu,孔圏外で 接続したものは1個とかぞえて
23~40/muであ る.縦に連なる道管要素の間は単せん孔で,せん孔 板は
ふつう僅かに傾斜する.孔圏道管にはチロース が発達する.
孔圏外道管の小径のものの内壁にらせ ん肥厚がある.
 材の基礎組織は真正木繊維で,その長さは1.1(0.6 ~1.7)mm,
径は0.01~0.02mm,壁厚は0.002~ 0.0025 mm.軸方向柔組織には
周囲案組織と夏材部 年輪界付近に僅かに散在する柔細胞とがある.
柔細 胞の径は0.008~0.03mm,壁厚は0.001~0.0015 mmである.放射組織は
1~7細胞幅の狭いもので多 くは3~5細胞幅,軸方向に1~60細胞高で,ときに
2個が上下に接続した形のものが現れる.
構成は平 伏細胞と上下両縁および周辺に現れる直立細胞または
方形細胞とからなる異性である.後者の細胞内に ときに結晶を含んでいる.

 

 
(4)材の性質と利用

材の物理的・機械的性質は次のようである.気乾 比重0.62(0.50~0.75),
含水率1%当りの収縮率は 接線方向0.32(0.23~0.43)%,放射方向0.16(0.11 
~0.23)%,熱伝導度(含水率101%,温度20度C)0.13 kcal/m・h・0C,
温度伝導度(合水率10%,温度60度C) 4.9×10-4・m2/h,
誘電率(IMC)は全乾時2.0,気乾 時4.6,着火点265(260~270)℃,
発火点380(370~ 390)℃,縦圧縮強さ370(300~420)kg/cm2,
縦引張 強き1,050(850~1,200)kg/cm2,曲げ強さ800(650 ~950)kg/cm2,
曲げヤング係数7.0(5.5~8.5)× 104・kg/cm2,せん断強さ140(120~170)
kg/cm2,衝 撃曲げ吸収エネルギー1.6(1.2~1.9)kg・m/cm2, ブリネル硬さは
横断面4.4(3.3~5.2)kg/mm2,  放射断面1.6(1.3~2.0)kg/mm2,接線断面2.2
(1.8~2.6)kg/mm2である.
 材の化学的組成は代表的栽培品種の枝条材の値で,セルロース47~61%,
αセルロース33~43%,ペントザン15~21%,ガラクタン痕跡~2%(1~2 %の
ものが多い),リグニン15~28%,温水抽出物 5~19%,アルコール・ベンゾール
抽出物2~7%, 1%NaOH抽出物23~35%,灰分1~3%である.
 これらのうち抽出成分および灰分は技条材のためやや多いと思われる.
 材はやや重硬で切削その他の加工はやや困難であるが,磨いた
仕上げ面は光沢がある.材質は強籾で,心材の保存性は高い.


 材の色合いと木理は重厚な感じがあり材質が良好なため装飾材として
賞用され,ことによい杢が出るものは銘木として扱われる.
器具材では火鉢,煙草  盆,文具類,旋削したものでは盆・椀・碁石入れ
などがあり,家具材では箪笥(たんす),机,台,棚, 箱類などがあるが
とくに鏡台,針箱の貼(は)り板としてよい.建築装飾材では床柱,床(とこ)
まわりの材が多く,その他機械材,三味線の胴などの楽器材,彫刻材,
寄木(よせぎ),木象がん(もくぞうがん)などに使われる.
樹皮は強籾なので和紙に混用され,またロープなどを作ることがあり,
黄色の染料にもなる.
根皮は漢方薬の桑白皮(そうはくひ)で,利尿,緩下,せき止めなどに用いる.

 

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